思えば、遠くへ来たものだ。
アッシュは汚れた天井を見ながら、そんなことをふと思った。
自分を犯している男のことは、考えたくもない――路銀を得るための手段とはいえ、この方法は出来れば使いたくはなかった。幼い頃を思い出すからだ。
幼い自分はよく盗みを働いては身体に傷を作っていた――別の手段、つまり幼い身体を売ることを覚えたとたん、手に入れられる食料は増えた。自分より幼い弟妹たちを食べさせるためには、手段などは選んではいられなかった。気持ち悪くて、吐き気がして、身体を貫かれるたびに心の中で何かが壊れていっていたことはわかっていたが、一度覚えた味は忘れられなかった。それは、恩人であるロナート卿に拾われるまで続いた。幼い身体は、男女ともによく売れた。ある時は年かさの女の相手をしたし、別の日には若い男に買われたこともある。別の日にはたっぷりと金を弾む貴族が欲望のままに抱かれた。このフォドラに好きモノは、大勢いた。そんな人間のことは何とも思っていなかった――そんなことを考えようとする心は、とっくの昔に壊れていたからだ。
それでも、アッシュの心が完全に壊れる前に、ロナート卿という善人と出逢えた。クリストフという優しくて頼れる義兄とも家族になることが出来た。それが、アッシュの心を優しく照らし、包んでくれたのだ。
彼らと過ごした時間は暖かく、そして掛け値なしに幸せだったと言える。ロナート卿は無学のアッシュに根気よく勉学を教えてくれたし、義兄クリストフは華奢だったアッシュの身体を鍛えてくれた。庭師の老人はアッシュの物覚えの良さを何度も褒めてくれたし、屋敷の使用人たちも新しい家族であるアッシュたち兄弟を温かく受け入れてくれた。まるでロナート家に最初から生まれていたかのように、皆、扱ってくれた。あそこは本当に幸せな場所だった。
それが失われたのは、士官学校に入った年だ。
義父ロナートがセイロス教会に対し謀反を企てた。その結果、アッシュは義父を己の手にかけることとなった。あの時の手の感触は、今でも覚えている。直接手を下さずともよいのでは、というベレトやカトリーヌらの計らいにも首を横に振ったのは、義父の真実を己の目で確かめたかったからだ。
その結果、ロナートは討ち死にし反逆者という烙印を押され、ロナート卿の元に居た弟妹たちは先に手を回していたカトリーヌの手により教会で保護された。
だが、それでも、しこりは残った。
それは真っ白な布に落とされた黒い染みのように、少しずつ、少しずつアッシュの心を蝕んでいった。
そんな中、卒業も間近という時期、黒鷲の学級のエーデルガルトが突如教会に対して反旗を翻した。青獅子の学級の生徒らも戦線に駆り出され、今は各地に散って帝国を相手に戦っているはずだ。
だというのに自分は今、男に身体を貫かれ、娼婦のように喘いでいる。
ただがむしゃらに腰を動かして獣のような息を吐いている粗野な男の、荒っぽいだけの単純な行為に、いかにも感じていると言わんばかりに腰をくねらせ、甘い声をあげ、囁くのだ、もっと、もっとあなたがほしい、と。
その甘い言葉を真に受けた間抜けな男は欲に塗れた顔をだらしなく歪ませながら、へこへこと腰を動かして必死に抽出を繰り返す。粘着質な水音だけが薄暗い場末の宿に響き、アッシュは天井をただ仰ぎ見ながらひどくむなしい時間を過ごしているなと感じていた。
「散々好き勝手やった割にたったこれだけか。今回は割が悪い客だったな。客の取り方も、考えないと」
特に目的が有るわけではない。アッシュは戦うことが得手とは言い難かったから、戦争が始まってからも積極的に祖国のために戦うというような真似はしていなかった。そうではなくともロナート卿の一件からこちら、セイロス教会に対しては不信感を抱いていた。
そして、エーデルガルトが兵を挙げた瞬間に人が変わったかのようになったディミトリにも不安を抱かなかったといえば、嘘になる。
何よりアッシュには、守るべきものが在った。それは祖国でもなければ領地でも領民でもない。家族だ。
今彼らは、ローベ伯が治めているガスパールの教会で戦火を逃れるように生活していた。ローベ伯自身は信用のならない人物だが、少なくとも戦火から逃れる姑息さは持ち合わせている。その辺をアッシュは利用して、ロナート卿の名やデュラン姓を出さず、自分とは無関係の戦火に巻き込まれた哀れな孤児として弟妹たちを預けていた。そして、こうして使えるものをすべて使って金銭を稼ぎ、彼らに仕送りを繰り返しているのだった。
その為には、もっと金払いの良い客を見つけなければならない。
傭兵として生計を立てるには、アッシュの腕はまだまだ未熟だった。
士官学校で鍛えてはいたが、アッシュよりももっと腕の立つ傭兵などこのご時世ごまんといた。何よりアッシュは細身で柔らかい顔立ちをしている為、傭兵ギルドでも舐められることが多く、下手をすれば仕事の斡旋すらまともにしてもらえない始末だ。そうなれば幼少期に覚えた手段を使うしかない。いまだ甘く少年らしさを残す顔立ちとそばかすは、一定の人間に好まれる武器だ。その素朴さと若草色の大きな瞳で哀れな孤児を演じれば、安易に腰を抱き引き寄せる男女は少なからずいた。しかし、あまり街などで目立つと本職の娼婦や男娼に睨まれるため、アッシュは基本的に道すがら出逢った人間を物陰に引き込み、耳元で甘く囁いて誘うことにしていた――そういったコトを好む輩を見抜く目は、幼少時に培っていた。
「……あまり寄りたくはないけど、ガスパールに向かおうかな。ローベ伯の男色は有名だし、ガスパール兵も好きモノが多いからな。あんまり派手にやって娼館に目を付けられないようにしないといけないけど」
その前に、先ほどの男が散々ナカに吐き出した精液を掻き出さなければならない。そんな後処理までする客は殆どおらず、アッシュも慣れたものだった。満足げに眠りについたままの男を尻目に、アッシュは重たい腰をあげる。目指すのはこうした宿には必ずある風呂場だ――客取りを売りにする旅人たちを商売相手にするからには、必要な施設の為、必ず備わっている。静かに風呂場に入り込むと、幸い一人だった。ふう、と重たい息を落としてから、アッシュは精液に塗れた下穿きを脱ぎ捨てる。続けざま後孔からどろりとした気持ちの悪いものが落ちてきた。あの男は散々ナカで出していたから、受け止めきれなかった精液が漏れたのだろう。
「んっ……ふ、ぅ……」
自分で後孔に指を突っ込んで、忌々しい精液を掻き出す作業も一仕事だ。男娼めいたことを始めてから、まるで女性器のようになってしまっている後孔も少しの刺激ではくはくと欲を持ち出すから始末が悪い。アッシュ自身の前も兆してしまうことがままあり、そちらの処理もする必要があることが往々にしてあった。
「ぁ……ん……っ、や……」
思わずブルリ、と震える腰を押さえつけたくなるが、今回もまた兆してしまっているアッシュ自身ももどかしく、当初の目的とは裏腹にアッシュはくちゅくちゅと後孔を己の指で犯すように――前立腺を的確に刺激するように、動かしていた。
「や……ぁあ……ぃ、……い……」
自ずと腰が揺れてしまい、甘い声が明け方の薄暗い風呂場に響く。思わずもっと熱くて太いものが欲しい、などという欲がアッシュの脳裏に一瞬過る。
アッシュは精液を掻き出すための作業が己の快楽を高める為の行為になっていることに気づかず、夢中になっていた――その為、近づいてくる足音に気づくこともできなかった。
「おい、何ひとりで抜け出して愉しんでるんだよ」
怒声に近いそれに、アッシュは行為を止めて振り向けば、客だった男がそこには立っていた。その愚息は勃起し、欲をたらたらと垂れ流している。
「お前は俺のモノだ。お前は、俺のモノだろう!お前をヤっていいのは、俺だ……!」
「な……ぁあっ!」
男は裸のアッシュをあっという間に手中に捉えると、無理矢理勃起したものを慣らしも何もなく後孔に突っ込んできた。
「ぁぁぁぁああああああああああああぁぁああ!!」
「きっ……つ……い、イイ……っ」
ぐちぐちと肉が拓いていく音がアッシュの耳に届く。男は両腕をアッシュが向かっていた壁についてアッシュをその場に閉じ込めると、乱暴な抽出を開始しだした。
「イイッ、男膣サイコウッ、……イクッ、このままイッちまう……!!」
「ぁあ、ああ、ぁああ、あぁあ!!」
ガシガシと腰を何度も動かし、乱暴にアッシュのナカを拓いていく男の様はまさしくケダモノでしかなかった。そのうち男はアッシュの細い腰を乱暴に掴み、より一層深く犯せるように腰を動かしだす。
「いぁっ、あぁああんっ、ふかっ、い……っ、ぁああああんっ!!」
アッシュ自身も甘い声が漏れていることにも気づかず、乱暴ながらも夜よりもずっと好いトコロを突いてくる男の動きから逃れようとするが、そうする度に男が腰を寄せ、パンパンと乱暴に穿ってくる。穿たれるたび、アッシュの唇からは嬌声が漏れて風呂場に響き、その声が毒のようにアッシュの耳を犯した。アッシュの前はとうに勃起していたが、男はそんなものには興味ないと言わんばかりに何度もアッシュを穿ち、精を吐き出す。
一度精を吐き出しても懲りずにまた抽出を繰り返し、アッシュの腸壁を何度も擦り、前立腺を掠めて、奥を犯す。それだけには飽きたらず、男はアッシュの太ももを腕でつかんで乱暴に上げさせると、より深く穿てる、突き上げるような姿勢になってガツガツとナカを犯した。
そうなると男の太いモノがより感じられてしまう。犯されるたびにアッシュの前は切なげに震え、透明な汁をたらたらと流した。
男はアッシュが嬌声をあげ善がるのをよいことに、荒い息をアッシュに吹きかけながら犯し続ける。
「いぁっ、ぁああっ、何、なにか、とどくっ、おくッ、届いちゃう……っ」
アッシュはもはや自分が何を言っているのかわからなかった。ただ、与えられるとんでもない快楽と刺激に身体を委ねるしかなくなり、本当にこれが先程と同じ男なのかと疑問に思いながらも身体を震わせる。
やがて男の勃起したものが膨張しきり、アッシュの最奥に――届いてはいけない場所を犯しだした。
「かはっ……?」
考えられないほどの衝撃と快楽がアッシュを貫き、意識をトばす。ごちゅん、という聞いたことのない音がして続けざま、熱いものがそこに注がれた。どくどくどくどく、とその注がれる勢いすら感じ取ってしまい、アッシュはブルリと身体を震わせた。たまらない、たまらない。ナカが疼いて仕方がない。ナカがうごめき囁く。欲しい、もっと、オトコが欲しい。オトコの熱いモノが欲しい。ほかにナニもいらない。
「ぁああああっ、あんっ、もっとっ、奥ぅ……!!」
「へへっ、可愛いヤツめ……昨晩より男膣の具合も、何もかも最高だ……っ」
ごちゅん、と男の勃起したものがアッシュの最奥を穿つ。その瞬間。アッシュは意識が完全に飛び、目の奥がチカチカとして、頭の中は真っ白になってしまった。
「ぁ、……はぁ……あ……」
アッシュはがくがくと両ひざを震わせるのだが、男のモノはアッシュのナカで萎えることもなく再び欲と熱を取り戻した。
調子に乗った男は、ぐったりとしたアッシュの顎に手を這わせると上を向かせて顔を近づける。
「お前、よく見るとカワイイ顔してるよな……女みてぇだ。そのそばかすも素朴でそそる。好みなのは身体だけじゃなかったってわけだ。どうだ、俺に犯されて感じてたんだろう?お前、夜は本気じゃなかった。けど、今は本当に感じてたよな?なぁ、もういっぺん、ヤらせろよ、金は弾む。何なら俺の旅に連れてってもいい。これでも、腕は立つ方なんだぜ」
下卑た笑みを浮かべ男はアッシュの唇をべろりと舐めた。その感触の気味悪さにアッシュは柳眉をしかめるが、それすら男の興奮材料になったのか、アッシュのナカにあるモノがぐっと質量を増した。
「お前、オンナなんかより全然イイぜ……なぁ、本当に一緒に来ないか?」
「……断りま……んぁあっ!」
ぐい、と男のモノが男膣の中で動くだけでアッシュは感じるようになってしまっていた。
「なんだ、感じてるじゃねえか。いいだろ、どうせ立ちんぼで金に困ってるんだろ?」
男は続けてアッシュの胸元をまさぐりだした。夜はほとんど触れてこなかったのに今更どうしてなのかと思ったが、アッシュの両乳首は先程までの快楽で張り詰めるほどに乳輪ごと勃起してひどく目立つのだ。敏感になった乳首を指先でこねくり回されて、アッシュは再びカン高い嬌声を漏らしてしまう。
「ぁああんっ、胸、ダメ……っ」
「へへ、まるで女の乳首だな……熱っぽいし、美味そうだ……」
言うなり男はアッシュの乳首に吸い付いてきた。そのまま赤子が乳を吸うように吸い付く力だけで乳首を刺激する。もちろんもう一方の乳首は指先で捏ねくりまわしており、腰の抽出も続いている。胸のもどかしい刺激と、下肢の直接与えられるとんでもない快楽でアッシュは最早何も考えられなくなり、ひたすらに男のモノが欲しい、という一点に支配されていた。
「ちくびっ、いじめないで……あっ、ナカと一緒にっ、ダメッ」
「そういう割に腰は揺れてるし、乳首もビンビンじゃねえか。ハハッ、ほっとかれてる前が可哀そうだなあ……けどお前は俺のオンナになるんだから、もうこんなモノ、必要ねぇよな」
男は勃起してプラプラと揺れているアッシュのモノを一瞥しながらも触れることはなく、ひたすらに乳首とナカに執着していた。何度か吸われ、時折歯を立てられた乳首は真っ赤に熟れ、下肢からはぐちゅぐちゅと残っていた精液が粘着質な音を立てる。それすらも興奮材料になり、アッシュも余計に昂っていった。
「やぁんっ、ああぁっ、ナカ、ダメなトコロ、とどいちゃうぅ……!!」
「いい声で鳴くなぁ、お前……最高だ……!」
男は乳首から唇を離すと、涙と鼻水でぐちゃぐちゃになったアッシュの頬をべろりと舐めて、続けてその瞼を唾液塗れにする。そんな行為にすら感じてしまい、アッシュは身体を震わせた。軽くイってしまったのだ。アッシュの息が上がっていることに気づいた男は気を良くしたのか、抽出を早め出す。がくがくとアッシュの身体が揺れるが、男はそんなことはお構いなしに突き上げてきて、再びアッシュの最奥に欲望を吐き出すのだった。