ステージの向こう側

「ぼくってやっぱり優柔不断で甘いと思う?」

 とある宿場で食事をしているときに、唐突にクッキーが同行している三人の仲間に問いかけてきた。

「え、お兄ちゃん急に何?」
「ほら、こないだミリエラを取り逃しちゃったじゃない。命の紋章は手に入ったけど、あれはあいつがちょっと特殊だったから運が良かっただけで……多分、普通ならそのまま逃げられて、命の紋章も手に入らなかったんじゃあないかな」
「それはそうかもしれないけれど、あくまでも仮定の話だし、仮にそうだとしたら私たちはミリエラを追ったんじゃないの?その上でもう一度戦うことになれば、あなただって同じことは二度しないでしょう。それで何か問題があるの?」

 プリンの理路整然とした言葉にも、クッキーは不承顔だ。

「うーん、そういうことじゃなくて……ぼくはああいうとき、色々考えちゃうから、どうしても決断は遅くなるし、魔物と言っても命があるって考えちゃいがちなんですよね」
「なるほどね、そういうことだったの」
「あー、なる、お兄ちゃんそういうところあるからねえ」

 女子二人は納得顔で食事の続きを始めている。ロランはといえば、改めてこの場でクッキーがどうしてそんなことを言い出したのかを考えていたので、食事の手はいったん止まっていた。
 正直なところ、その通りだと思う。彼の生来の優しさと信心深さからくる甘さや、色々と試行錯誤するが故の優柔不断さは、別に今に始まったことではない。だから、恐らくこれからも変わらないだろうと思う。なので、ロランが出した結論は一つだった。

「別にいいんじゃないか、それがお前なんだし」
「そうねえ、お兄ちゃん昔からだし」
「私もそう思うわ。それに、そういうあなただからこそ、私たちは助けられているのよ」
「う〜ん……」

 それでも納得がいかないのか、クッキーはどこかふてくされ顔のままだ。食事もあまり進まないのか、サラダのベビーリーフをぐるぐるとフォークで弄っている。とてもではないが一行でいちばんの年上とは思えない仕草と表情だが、それも彼の良さだしそれでよいと皆思っているのだが、本人はどうもそうではないらしい。
 確かに、その甘さや優しさ、優柔不断さから失敗も多い。だが、それは別に学ばないわけではなく、そこから彼は色々と考えを巡らし、より良い方向へ行こうとしているのは皆知っていた。

「今更どうしたんだ。別に今回に始まったことでもないし、そういうお前だから必要だと言っているんだが」

 だからこそ、ロランは顔を顰めて少しだけ低い声でしっかりと彼の顔を見て言葉をつづけた。

「え、あ、ええと、うーん……それって、無理矢理言ってるとかじゃなくて?」
「俺は嘘は得意じゃない」
「そうねえ、ロランが嘘を言うのは昔から見たことないわね」
「うん、短い付き合いのあたしでもわかる」
「……ごめん、ロランが嘘ついてるとか、プリンちゃんの言葉を否定したいんじゃないんだ。ただ、迷惑じゃないのかなってずっと考えてたからさ」
「誰もそんな話はしてないだろ」

 ロランは少しだけこの頑固者にイラっとしてしまい、語気を強める。そもそも、この彼の自虐的なところは何なのか。ロランもプリンも実妹のマカロンも、そういう彼だからこそ信頼できるし、背中を預けられるということを、もう少し彼は理解すべきではないのかと思っていた。

「……そうだね、皆、ごめん。それからありがとう」

 ようやく彼の顔にいつもの笑顔が戻る。そう、それでいい。見ればプリンもマカロンも頷いているし、ロランもこれで食事が喉を通るというものだ。一番の相棒でもあるクッキーがここ数日妙にくすぶっていると感じていたのだが、ミリエラの件が尾を引いていたのか。恐らくこの旅の仲間は誰も気にしていなかったであろうことを随分と気にしていたらしいのは、彼らしいとは思うが、それで調子を崩されてはかえって困ってしまう。

「クッキー。俺たちの間に隠し事はなしだ。一番最初に言ったよな。お前が悩んでいるだけで、俺も皆も気になるし、かえって迷惑になる。強い言い方をするが、これからは本当に本腰を入れないと乗り切れない局面も出てくるんだ。お前はお前のままでいい。それは、俺たち三人が保証する。だから、もっと自信を持て」

 ロランの言葉にぱちくりと大きな瞳を瞬かせてから、クッキーはふは、と大きく笑った。

「あはは、君にそこまで言わせちゃうのは流石にぼくでもまずいと思いますよ。以後、気を付けます!よし、美味しいごはん、たべよ」
「お兄ちゃん、切り替えはっや〜……」
「まあ、いいじゃない。いつものクッキーに戻ったことだし、私たちも続きを頂きましょう」

 恐らく彼はこれからも選択を迫られた時にその都度悩むのだろう。けれど、それでいいと思っている。ロランだって、プリンだって、マカロンだって、皆欠点の一つや二つあり、同じなのだ。四人が揃って一人前だ、自分たちはそのくらいで考えている。

「お前が優柔不断なのは思慮深さからくるものだし、甘いのも昔からだろ。本当に今更なんだよ、そんなのは」
「悪口なのか褒めてるのか、君の場合イマイチわからないんだよな〜……まあここは、褒められたってことにしておきますね」

 言うなり雑に野菜と肉を同時に頬張るクッキーがまるで小動物のように見えてしまい、ロランの表情も自ずと緩む。見ればプリンやマカロンもいつの間にか笑顔になっている。
 彼のこういうところが得難いのだ、とロランも思いながら、食事を再開するのだった。