なにも、わからなかった。
ただ、こえがずっと、きこえていた。
呼ぶこえを。自分の名を、呼ぶ、とてもとても、たいせつな……そう感じる、こえを。
すべては終わる。アンヘルは自らの命が尽きると分かったときに、ようやくすべてをとりもどした。
目の前にいる男がだれなのかも。
彼が、自分にとって、どのような存在であったかも。
そして、彼は――自分の命が尽きれば、共に命を散らすことも、すべて、おもいだした。
「カイム、」
名を呼ぶと、男は少しだけ不器用にほほ笑む。損な表情をするような男ではなかったはずなのに、なぜだろうか、身体が熱くなるような、芯がしびれるような、酩酊をおぼえるような、不思議な感覚を覚えた。ああ、もう、我が魂は尽き果てるというのに。なぜ、こんなにも、喜ばしいのか。自分が、よろこんでいるのだ、とそのときアンヘルは悟る。
再会の喜び、求めていたものとの邂逅、それは、とてもではないがドラゴンの語彙をもってしても表現できぬほどに得難く、言い表せない感覚だった。それに近しい感覚も、わからない。ただただ、そこに、共にあるということが――その体温をかんじるということが、ひどくうれしかった。
カイムは言葉を発せない。そのかわり、そっとアンヘルに触れる。まるで真綿に触れるかのように、おだやかに、やさしく。
それで、十分だった。
もう未練はない。この世界にも、自分自身にも。この男が共に行くというのなら、それで。
たとえその先に待つものが終焉だとしても。否、それならば、なおいっそ。